ワンライ



一ノ瀬はじめ / 笑顔
累 2015/7/11

 鳴りをひそめていたベルク・カッツェがいつか舞い戻ってきたときの対処について、まったく考えていなかったわけじゃない。それでもこの星に飽きて別の星へターゲットを移してしまった可能性は高く、願わくばそうであってくれとも思っていた。


 8月15日。立川駅のコンコース。
 とにかく累にとっても他のメンバーにとっても、またここに集まった人々の誰にとっても、目の前の光景は想定外としか言いようがなかったはずだ。それくらい大変なことが起こっていた。
 命を捨てるつもりで戦って、なんとかできるならそれで良し。できないならばそれまでだとさえ覚悟していたのに。
 大勢の人がいるにもかかわらず、夜中のように静まりかえったコンコースにうめき声が響く。のたうって転げまわる小さな体。一部始終を世界に伝えるべく構えた累のタブレットが、震えた。
 冷静になって考えてみれば、他に方法などなかったのかもしれない。居場所を与えるより他にカッツェを抑える術はなく、それを実行に移せるのもまたきっと彼女の他にはいなかっただろう。
 彼女からもメンバーからも離れた場所で、小さな悪寒を抱えて累はそのすべてを見ていた。
 カッツェは多くの命を奪い、今までにいくつもの星を滅ぼしてきた宇宙人。カッツェのことを累はよく知っている。累の力ではどうしようもできない相手だともわかっている。そんな存在をその身に受け入れようとしている彼女を、人々はどう思うだろう。
 万が一にでもそんなことはないと信じたいが、彼女にカッツェの残虐さが乗り移ることはないのだろうか。人々は――仲間は彼女を恐ろしいと感じてしまわないだろうか。
 その予想はすぐに、良い意味で裏切られた。固唾を飲んでその様子を見守っていた仲間がひとり、彼女の名を呼んでその身を抱いた。他の仲間もそれに続き、やがて集っていた人々も彼女の元へ駆け寄ってその無事を喜ぶ。
 ――累は、その様子を最後まで中継し続けた。



 それから後、やはり彼女の決断を笑う人は現れた。それは一人ではなく、街に出れば偽善者、良い子ちゃんぶるなと野次が飛ぶ日もある。そのことに怒る人も泣く人もいて、人の心はいろいろだ。
 彼女は以前も今も特に変わることなく彼女自身のままで、おそらくはこれから先もそうなのだろう。
 だからというわけではないけれど、ときどきしょうもない頼み事をしたくなって累は彼女の名を呼ぶ。
「ねえはじめちゃん」
「なんっすかー累くん」
「笑ってよ、はじめちゃん。――笑って」


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@mamiyakei



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