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「一緒に」の証拠:篠岡千代
「ほらこれ。懐かしくない?」
お弁当を食べ終えた友人の1人が机の上に広げ始めたカラフルな糸。
「??」
「何コレ」
「え、小学校のときはやらなかった?どうやら大事に取ってたみたいでさ、昨日大掃除してて見つけたの。皆もやってみない?」
友人の手に握られていたそれは、色とりどりの刺繍糸だった。
「ええと、リリアン?」
「それでもいいけど、ミサンガにしようよミサンガ。お揃いにしたらカワイクない?」
「へえ、いいかも。やっていいの?」
「うんどうぞ。ホラ、千代もやろうよ」
「私?私はいいよ。グラウンド行ってくるし」
「ねえ千代、草刈もいいけど、今日はあいにくの天気なんだし、今日くらい行かなくてもいいじゃない。いっつもいっつも野球部野球部。たまにはこっちとも遊びなさいよ」
(う〜ん)
困って窓の外を見る。
確かに今日は曇り空。でも雨は降ってないし、草刈ができないことはない。
野球部に一生懸命な自分にこうして声をかけてくれる友人の存在はとてもありがたいのだけど。
(ミサンガ、か)
小学校の頃にリリアンと一緒にはやったのを思い出す。腕や足に巻き、紐が自然に切れたら願い事が叶うというジンクスもあった。
「千代は願い事ないの?まー迷信だろうけど。わかんないなら教えたげるし。やってみようよ」
「う、ん」
そんな声におされて席に着きなおす。
「今時ミサンガつけてる子も少なくなったよね」
「そういやそうかも。だって切れる前に汚れちゃうし」
「そうそう!しかも臭くなるしさ」」
「そういえば装飾品禁止だけど、ミサンガって装飾品?」
「え〜、ミサンガくらい平気よ。多分」
友人たちの会話はとりあえず耳には入っているが、頭には入ってこない。
「願い事かあ」
1番の願い事ってなんだろう。そうつぶやくと友人がこちらを向く。
「言っとくけど千代、野球部カンケーの願い事はなしよ」
「え、ダメなの?」
「そうよ。もっと千代個人の願い事じゃなきゃダメだから」
「えー」
「えーじゃないの」
「野球部以外の願い事ぉー?」
(まいったなぁ。そんなの思いつかないよ)
「そうよ、お小遣いUPとか、彼氏欲しいとかないの?」
「うん。お小遣いは足りてるし、彼氏も特に欲しいわけじゃないし」
「これだから千代ってば。彼がいたら楽しいのにさー」
「だって野球部皆カッコいいもん。目の保養なら間に合ってる」
「それを言っちゃお終いでしょ?」
「だってホント皆好きだもん」
「あっそ」
「願い事願い事……」
(う〜む……)
全員揃って願い事に頭を悩ませる。
でも結局自分にはそんな願い事見つけようがないのだ。頭の中は野球部のことで一杯なのだから。
「ああムリ!野球部以外なんて思いつかないよ。私もーあきらめる」
出口の見えない長いトンネルに入り込んでしまったみたいにぐるぐると。
「そうよね、結局ミサンガ作るほどの願い事なんて思いつかないね」
「お小遣いUPは親に頼めばいいんだし」
「彼氏だって好きな子にこっちからアプローチすればいいんだし」
(お、よしよし)
少しずつ友人の意識は野球部から離れているようだ。
「じゃあさ、とりあえず編み方だけ教えてよ」
「お、やる気ね千代。もしかして願い事思いついたの?」
「ううん、やる気なわけじゃないけど。それと、この糸どこに売ってる?手芸屋さん?」
「糸は手芸屋に売ってるけど、コレ使えばいいじゃない。リリアンすることなんてないし」
ありがたい友人の申し出だが、おそらく相手と自分の考えている量が違う。
「あ、いいのいいの。大分使っちゃいそうだから自分で買う」
「?何本分作りたいの?」
「………。13本分くらい」
『じゅうさんんんん!?』
その声にクラス中の視線が集まる。
きれいにハモった友人の口を慌ててふさぐ。同じクラスには野球部の人間がいるのだ。聞かれてしまっては恥ずかしい。
「しー、声落としてよ」
「……千代、あんたそれ野球部に作る気?」
「あ、わかった?せっかく作るなら自分の分だけよりも全員の方がいいかなぁと。野球部が10人と、監督と先生と、私の分」
(1人分より、13人分の方がご利益ありそうだし)
はっきり言い切った私の顔を見て、友人たちがため息をつく。
「ミサンガって野球よりサッカーってイメージだけどいいの?」
「カンケーないよ!大事なのはハートだよ、ハート」
「ホントあんたって野球部野球部。ここまで来るともう病気だよ」
「ちょっとは他に目を向けたら?」
「いいの!私がやりたいんだから」
別にミサンガの迷信を信じているわけじゃない。好き嫌いもあるだろうから、作ったって全員が身につけてくれるとは限らない。
どこでもいい。ケータイのストラップでもカバンの紐でもなんでも。
(でも、何かしたい)
初戦の相手は去年の優勝校。気持ちがくじけそうになるくらいの強豪だ。
自分がもし選手だったらいくらでも練習してその力になれるのに。
(私ができるのって皆の手伝いだけなんだもん)
勝つためにできることがあるのなら、何だってやりたい。
迷信だなんだっていわれたってかまわない。だって要は気持ちなんだから。
友人はもう一度ため息をついた。
「いいわよもう。糸だって全部使っていいから」
「ホントに!?」
「あんたのキラキラした目を見てたら、不思議と応援したくなっちゃうのよね」
「ありがとう!!」
(ミサンガなんてちょっと女々しいかな?でもいいよね)
「なら千代。それぞれの好きな色をリサーチしときなさいよ」
「そうね、どうせなら身につけて欲しいじゃない。あたし達も手伝ってあげるから」
「いいの?ありがと!」
自分の手で13本作りたい気持ちもあったが、せっかく手伝ってくれるという申し出を断るのも申し訳ない。
それに早くできるならそちらの方がいいだろう。
「千代もいい友達をもって幸せよね」
「ホントホント。感謝しなさいよ」
「してるってば。今度アイスおごっちゃう!」
1本1本願いを込めよう。
部員もマネージャーも監督も教師もそんな立場は関係なくて。全員で勝利を目指すのだ。
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