「一緒に」の証拠:浜田良郎




「もらってくれますか」
 試合後の気だるい感覚を打ち破って、そんなコトバとともに差し出されたのは願を背負って飛ぶ鳥たち。
 負けたチームの思いを受けて、再び高みを目指して勝ったチームと共に空を翔ける。
「がんばってください!応援してます!」
 その様子を見ていて考えた。
 応援団はどんなに彼ら応援していても、どんなにそばで見ていたくても、その居場所はベンチにはない。
 遠く離れた場所から精一杯の声援を届けるだけ。
 応援団の役割を十分に理解しているつもりでも間に横たわる距離は実際にはとても遠く、彼らとの間にはフェンスという区切りまで設けられている。
 あのベンチの中に彼らと一緒にいられたら。そんな方法がもしあるのなら。
 桐青戦の後選手たちは学校へと戻り、応援団は現地解散。善は急げとばかりに早速材料を集めてみたが、用意するものはそんなに多くはなかった。
(こんな紙っ切れがなー)
 改めて考えると不思議な感じだ。今の段階ではただの紙と糸にしか過ぎないのに、なぜ形になった瞬間あんなに大切にされるのか。
 ちまちまと折りだしたのはいいものの、残念ながら鶴の折り方を覚えてすらいなかった。
(仕方ねーよな、折鶴なんて何年ぶりかってんだ)
 どうにかこうにかパッケージ裏の折り方を参考に1羽折りあげてみる。
(コレは見なかったことに……)
 あまりといえばあまりな出来に情けなくもなるが、久しぶりだししょうがない。
 さあ、1時間でいったい何羽折れるだろう。


 放課後の1年9組。部活のない生徒もすでに帰宅し、クラスに残るのはもはや自分1人だけ。
 突然の呼び出しにも関わらず2人はやってきた。
「よお浜田、どうしたよ?」
「今日バイトは?」
「って、お前なんだコリャ」
 つかつかと机まで歩み寄って、机の上に広げられたパステル調の小さな四角い紙を手に取る。
「ん?見りゃわかんだろ。鶴折ってんだよ。千羽鶴にしようと思ってさ。バイトは6時からだしまだヘーキ」
 はいどうぞ、と紙を差し出せば2人は反射的にそれを受け取ってから顔を見合わせる。
「千羽鶴ぅ?わかった。桐青からもらったやつに対抗してんな?」
「対抗ってわけじゃないけどさ」
 そう、別に対抗しているわけじゃない。なんとなくもやもやした気持ちがしているだけ。
「他のガッコからもらった千羽鶴しかないの悔しいじゃん?ウチのガッコの野球部なのによ」
 桐青から託された千羽鶴は部室に大切に保管されているらしい。きっと次の試合では一緒にベンチ入りするんだろう。
 その外見からは想像もできないほどずしりとした重みを携えて。
「その気持ちもわかるけどよ、千羽っていったらケッコウな数じゃん。今何羽?」
「え、50はいってないと思う?」
「……何で疑問系だよ。1人で折る気か?何年かかると思ってんだ!」
「だってー、昼間は泉達がいるからできないんだよ。どうせなら内緒にしといて驚かせたいし。って訳で2人もよろしくな」
 そう告げると2人は期せずして盛大なため息をついた。
「バカだよな。何のための応援団だと思ってんだよ。3人でできるかって」
「ホントバカ。ウチのガッコの野球部なんだったらガッコの力で作りゃいいじゃんか。オメーあれだけ応援の人数集めたんだしよ、それぞれに2・3羽でも折ってもらえりゃあっちゅー間だぜ」
「いや、それもそーなんだけど……」
 大勢で折った方が早く出来上がるのはもっともだけど。
(オレたちの力だけでやりたいんだよな。って言ったら笑われるかな)
「お前のことだからどーせオレたちの力だけでって思ってるのかもしんねーけどさ」
「………」
(オレ心読まれてる?)
「応援したいキモチは皆一緒じゃねーか。どうせなら学校中巻き込もうぜ」
「そうそう、職員室とかクラスに紙置いといてさ。2・3年ならおおっぴらに置いてもバレないだろ」
「そりゃまーそーだけど……」
「桐青戦では皆あんだけ応援してくれたじゃねーかよ。ケチィこと言わずに次応援いけない分学校中で応援しようぜ」
「一緒に応援したいのはオレ等だけじゃないんだって」
 その言葉にハッとする。
 そう、次の試合は平日。応援団のオレたちでさえ部として認められていない段階では、公欠扱いは認めてもらえない。まして一般生徒が学校を休んで応援に行けるはずがない。
 桐青戦後、日程説明をした時のあの残念そうなため息たち。勝利の余韻に浸った時間は選手よりも応援していた方が長かったかもしれない。だからこそ3回戦に応援にいけないのは残念で仕方なかった。
 昨年の優勝校を破ったという新設チーム。彼らの勢いと一緒になって今学校中も大騒ぎだ。
 そう、応援したいのは何も応援団だけとは限らない。
「そういえばそうだよなぁ。せっかくチアだって入ったし。応援のキモチは大きい方がいいよな!」
「そうそう」
「皆でやろーぜ。んで糸に通すのはオレ等でやろうぜ」
「うん、それがいいかも。オレ、センセのトコ行ってくる!」
 善は急げだ。次の試合まではもう時間もないんだし。
(確かにオレたちだけで千羽ってムボーな話だよな)
『おう、いってらっさーい』
 各クラスに千羽鶴用の紙を配ってもいいものかのお伺いを立てに行こう。きっとOKだと言ってくれるはず。
(あいつらの顔楽しみだなぁ)
 出来上がった千羽鶴を見せたらどんな反応をするだろうか。


 1羽1羽願いを込めよう。彼らと同じベンチで一緒に試合を。
 部員じゃないからこそ力を合わせて彼らのために。勝利を目指す気持ちは決して負けはしない。