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「一緒に」の証拠:志賀剛司
「はい。これお土産」
君の分もあるよ。そう差し出せば、彼女はお世辞にも土産には見えない薄い紙切れに首を傾げる。
「これってお守り?野球部にですか?」
「それとなく彼らに渡してあげて」
「だいぶ珍しいですね」
百枝の言うとおり、確かにそれは珍しいものだった。
「この間出張に行ってきてね。手に入れて来たんだよ」
教師といえど、その仕事は学校で勉強を教えるだけではない。数年前には3.14が当たり前だった円周率も現在では3となったように、現場の状況は常に変化していく。生徒に最新の新しい知識を伝えるべき存在とされ、そのために教師にも欠かせないのが研修(研究と修養)。普段は県内がほとんどだが、ごくまれに県外への出張命令が下ることがある。
基本は講義や会議が主だが、学校を離れ他の土地へ行けるというのも魅力的だ。
土産は昼食に出かけたそばの神社で購入したものだ。
観光ガイドにも載っているような大きな神社で、平日にも関わらず観光客もいた。縁結びで有名な神社らしく朱と青の紐が対になった絵馬があちこちに取り付けられている。
その謂れに興味は惹かれたがゆっくりと観光している時間は当然なく、売店へと足を運ぶ。
学業合格・出産安産・金運開運・家内安全・愛情縁結び。はるばる遠方へと来たことだし、家族への土産にと財布を取り出す。
数々のお守りが並べられるその中でふと目に入ったのはあまり見かけたことのない交通安全のお守りだった。
もちろん交通安全のお守りならどの神社にも売っている。
問題はその形。お守りといえば袋状になっているのが主流だと思っていたが、最近は持ち運びが簡単であるようにと、薄いカード状のものが販売されているらしい。一見するとまるでテレホンカードのように見える。
確かに免許証と一緒に財布に入れておけばかさばりもせず、そう邪魔にもならないだろう。1枚200円。そう高いものでもない。
ふと思いついて袋に入れてもらうように頼む。
(10。いや、12人分にしておこう)
選手の分に加えてマネージャーと監督の分も。
縁結びならまだしも、さすがに1人で交通安全のお守りを12枚も買うのは珍しいらしくその用途を聞かれてしまった。
「お土産ですよ。それと願掛けです」
「何をお望みですか?」
「次の試合勝てますように、かな」
「なら必勝祈願のお守りもご用意しておりますが」
にっこりと笑う巫女さんに、こちらも笑って返す。
「いえ、交通安全をお願します」
彼らにお土産をと考えたとき、最初に脳裏をかすめたのは確かに必勝祈願のお守りだった。
何せ初戦の対戦校は去年の優勝校。冷静に考えて1年生しかいない新設チームが勝てるわけはない。
それでも勝つ気な彼らのためにどうか必勝祈願のお守りを。
けれども考えれば考えるほど必勝祈願は彼らには似合わない気がしてくる。
少なくとも勝つための努力は毎日朝から晩まで誰だってしているし、そのための願掛けだってランニングに出かけたついでに皆で近所の神社にお参りしているのだから。
奇跡を信じて期待するのは周りだが、それを一身に背負うのは彼らだ。重すぎる願いは時として彼らの力を奪う。これ以上周りが余計な期待をかけて彼らの気持ちをくじいてしまうのも嫌だった。
それならば、と手に取った交通安全のお守りだった。
どうか自転車で転びませんように。うっかりこけて骨でも折りませんように。
事故に関してだけは誰にも予測ができない。疲れていればいるほど注意力は散漫になるし、こちらが気をつけているからといって信号待ちをしている間に車が突進してこないという保障はどこにもない。予期せぬ事故に巻き込まれてしまうことはいくらでも有り得る。
10人限りの小さな部活。彼らは大きな夢に向かって走り始めたばかり。何よりも大切な時期だからこそ余計にそう思ってしまう。
どうか何事もなく彼らが野球をできますように。
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