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「一緒に」の証拠:チア
思い切ってお願いしてみようか、相棒とそんな話になって。
「ねぇ千代」
「頼みがあるんだけどさー」
「なぁに?」
『手に入れて!』
このとーリ!拝むポーズを見せれば、千代は焦った風に聞いてくる。
「ちょ、どーしたの、何を?」
「千代にしかできんと思う」
「そうそう、千代ならできる」
「だから何さ?」
言って良いものか。判断には迷うけれど仕方ない。野球部にとって大事なものだとしても、言わねば手には入らない。
相棒と目を見合わせてせーので声を出す。
「ユ、ユニフォーム貸して!」「ユニフォームちょーだい!」
言ってしまってから相棒と顔を見合わせる。
「ちょーだいってさぁ」「あーまっちがえたー!」「もらってどーすんの!」「あははーだよねー。わりー千代」
「………。えーとつまり、貸して欲しい、でいいの?」
『そう!』
「何で?って聞いてもいい?」
「もち!」
ユニフォーム自体ではなく、ユニフォームについているロゴが欲しいのだと告げる。
「あのさ、チアの衣装に貼り付けたいんだよ」
「衣装作ってんだけど、同じロゴが欲しくてさ。何とかならない?」
欲しいのはユニフォームではない。Nishiuraというロゴが欲しいのだ。
筆記体でそれらしいものはできるとしても、それではなんだか嫌だ。同じものがいい。
「なんだわかった。先生か誰かに相談してみる」
「頼む!恩に着るわ」
「今度ガリガリくんおごっちゃるから!」
「ありがとー、楽しみにしとく」
陸上部に間借りしている部室にはミシンはない。放課後の被服室を借りてちくちくと作業が進む。
タンクトップもスカートもハイソだって準備した。スカートの裾あげは終わっているから、後はタンクトップに手を加えるだけ。
目の前には待ち望んだ一着のユニフォーム。
「やったね、千代のおかげ」
「マジ助かった。筆記体なんて書けないし」
同じくらいの身頃の方が良いだろうと回されてきたそれは、予備用のまだ裏に背番号のないキレイなものだった。
「いつかこれも誰か着るんかな」
「そうじゃん?でもまずはウチらのユニフォームだよ」
丁寧に型を取って赤い布に写し取る。裏にシールを張ってアイロンを当てれば完成。
「ちょっと、位置気をつけてよ!」
「なら自分でやりなよ!」
言い合いながらも作業は確実に進んでいく。
「しつれーします」
「どーもー」
扉が開いて入ってきたのは応援団の3人だった。
「あ、いらっしゃい」
「そろそろできた?」
「もう少しっすー」
勝手にファッションショーをしていた被服室にマネキンはタンクトップを取り払った姿で放置されていた。つまり上半身裸のままだ。
「なんかこの姿はヒワイだな……」
「後ちょっとだから我慢してよねー」
スカートは履かせているし、手袋だってハイソックスだってちゃんとつけさせている。
「もうちょっとだな」
「チア含めてまた練習すっから」
「できればダンスないときがいいなぁ、なんて」
「その辺は考慮すっから」
「わーい」
カバンの中にオヤツがあったことを思い出して広げる。作業を進めながらも、被服室は俄かミーティングの場となった。
次の試合、西浦は勝つと信じている。問題はその次の応援で何の曲を演奏するか、それに合わせてどんなダンスをするのか。
できれば応援メンバーも簡単にできるような振り付けがあったら考えて欲しい。そんな話も出てくるが、何せこちらも応援用のダンスを踊るなんて初めてだから、わからないことも多い。
「このNishiuraってさもしかして……」
アイロンをかけてロゴを貼り付けたタンクトップを浜田が指差す。
「おんなじ?」
えへへ、相棒と顔を見合わせる。
ユニフォームと同じロゴだということ、わかってくれたてとても嬉しい。
「うらやましっすか?」
最初は2人とも踊りたいだけだった。同じクラスには千代がいて野球部も3人いるし、ダンス部以外にも踊る場所を見つけたと思った。
でも桐青戦後にチアとして本当に応援団に参加することになってから、ただ踊るだけではつまらないと思うようになった。
もっともっと一緒に。野球部と一緒に。
「オレらは別に同じじゃなくてもいいよな」
援団の3人は男だからか、同じという部分には惹かれないらしい。でも千代ならきっとこの気持ちわかってくれるだろう。
もっと一緒に。野球部と一緒に。次こそ一緒に勝利を。
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