|
各駅停車の向かい側
練習試合が毎週のように組まれるようになり、いよいよ夏に向けて本格的に部活が動き始めた。西浦グラウンド以外で試合をすることも多いので、あちこちに遠征に行くようにもなった。もちろん部活専用のマイクロバスなんてそんなご大層なものはない。
学校所有のマイクロを複数の部活で共有しているため、遠征日が重なってしまった場合は持参する用具は監督と志賀に任せるとしても、11人の移動手段はもっぱら自転車か電車になる。時間にしばられないという点で西浦野球部は皆自転車移動を好み、どうしても自転車では遠すぎる距離の移動のみ電車を利用することにしていた。
「今日の試合きつかったなー」
「オレもー眠い・・・・・・・」
先週に引き続いて今日も合計二試合をこなした。3校が集まり総当りの試合形式だったが、西浦は運良く午前・午後と試合が分かれていたので良かったが、それでも午後からはきつい試合運びとなった。
「マジ暑かった、夏みてェ」
午後から急に気温が上昇した。しかも二試合目は今のところ夏に向けて決定しているのとは別のポジションでプレーしていたから、その分気疲れも普段より多かった。
体力と気力の面からダブルパンチを食らった西浦ナインは、時間はかかっても今日の移動が電車で良かったと思った。適度に冷房のついた車内は気持ちが良く、扉が近いのが残念だが11人が横並びの向かい合わせになって座ることもできた。
後はもうそれぞれの最寄り駅に着くだけ。そう考えると、眠気はあっという間に襲ってくる。
誰からともなくうとうと。船を漕ぐようにこっくりこっくり。
「やべぇ、マジ寝しそう」
「乗り過ごしたらシャレになんねーな。交代で寝るか?」
ここから西浦までは約1時間。仮眠のつもりがうっかり熟睡になりかねない、微妙な距離と時間。
「みんな寝てていいよ」
(私はドリンク用意してスコア取ってただけだし)
どう考えても炎天下にプレーしていたナインよりは余裕があるように思われる。
「でも篠岡だって疲れてるだろ」
「ところが私今元気なんだよ。特に眠たくもないから、皆寝てて。近くになったら起こすから」
重ねて説得すると、やはり誰もが疲れていたようで礼を言って沈没していった。
(さすが皆、寝つき良いなぁ)
すやすやと眠るあどけない顔を見ているとなんだか微笑ましくてくすぐったくて、それでいて寝ている彼らにお構いなしに大声で自慢したい気になってくる。
(ウチの野球部は今こんなに頑張ってるんですよー!って)
さっきは元気だといっていたが、実の所篠岡もまったく眠たくないわけではない。暑いというのはそれだけで体力を奪われる。もちろんプレーしているわけではないからその疲れ具合は段違いにしても、そこそこ体力を奪われていた。
スポーツバックを抱えた集団が11人。坊主頭もいるから野球少年だというのが周りにもわかるのだろう。
今日は試合なの?結果はどうだった?どこから来たの?
隣に座るおばあさんからそんな質問を受けながらしばらくは眠気をやり過ごすことができたが、そのおばあさんが降りてからはぽっかりあいた隣の席が寂しい。
ふと気づくとまぶたがくっついて慌てて首を振って眠気を飛ばす。
(ダメ、もー限界……)
同じ動作を数度繰り返して、意味がないと悟った。こうなれば最後の手段。カバンから携帯電話を取り出す。
(後30分くらい、かな)
起きるべき時間にアラームをセットしてしっかりと握る。もちろんマナーモードにしているから、カバンに入れていると気づかないかもしれない恐れがある。
(ごめん、ちょっとだけ。ちゃんと起きるから……)
時間設定に間違いがないことをもう一度確認して、訪れる心地よい眠りへと篠岡も落ちていった。
ガタンゴトン。
静かに揺られて電車は行く。扉が開閉されるたびに喧騒が訪れるが、それ以外に誰もその眠りを妨げたりしない。
それでも深く沈んでいた意識はふとした瞬間に水面上に浮上する。虚ろな目を上げれば、向かいに座った人間も左右に座った人間も皆寝ていた。
(あれ、篠岡も寝てる?)
はっきりとしない意識と視界。
おぼろげな記憶を辿れば、確か彼女が起きているからといって部員を寝かせてくれたはず。
(起きてた方がいいかな……)
そうは思っても、ここで再び眠りに落ちればさぞかし気持ちがいいだろうことを体はしきりに脳に伝えている。
しばし逡巡にかられる心が一つ。
朦朧とした意識の下、それでも彼女の手にしっかり握られた携帯電話がやけにその存在を強調していることに気づく。
(あれアラームかも)
篠岡のことだから、起こすといった以上きっと最寄り駅の前で起きる算段をつけているだろう。
(オレらと変わらない重たい荷物運ぶんだ。絶対疲れてるって)
本人は元気だといっても、やはりそこは皆と一緒だ。
(それでもいつだって寝るのは最後で、起きるのは最初なんだ)
大事な我らがマネージャー。その穏やかな眠りが少しでも長く続きますように……。
|