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今年もハムの人が来ます。
西浦の1年は12月28日に終わる。
この日だけはいつのもランニングコースとは別ルートを辿って近くの山へ登る。
最終練習日は野球は一切しない。面倒ながらも掃除に勤しんだ後は作って食べて、それで今年の部活は終了となる。
「どうすっかな〜」
年内最後の練習日にはそれなりに区切りになることをしたいと、かねてから部員の間で話が出ていた。
近くの山へ登頂ランニングに行くことだけはすでに志賀から聞いていたかが、それ以外の予定は何も立っていなかった。面倒だが大掃除は当然としても、それだけでは何か物足りない。
「12月といえば、やっぱシワスだろ?」
「師走がどうかしたか」
「12月だよなぁってハナシ」
「まぁ12月だよな、当然だ」
師も走るほど忙しいというこの月。
ちょうど巷ではお歳暮商戦真っ只中だったこともあり、今年一番世話になったであろう2人にお礼を兼ねて何かしらの物を贈るという案は簡単に出た。しかし何を贈るかは問題だった。
「モモカンもだけど、シガポとか簡単には受け取りそうにねーよな」
あの2人のことだから、下手にモノをあげても受け取ってもらえるかはわからない。特に志賀は公務員だから、生徒からのそういったものは受け取らない可能性の方が高かった。
「残らなければいいんじゃないかな」
「じゃあ正月らしく餅だろ。つきたてはウマイ」
「モチツキ?杵と臼でか」
「ちっさい頃やったな」
「でも餅つきって新年だろ?第一道具もない」
「じゃあソバ食おうぜ」
「ソバは大晦日だけだ。28日なんて邪道だ」
「じゃあウドン。ウドン打ってみてー」
「ンなもん打てっかよ!どこで打つんだ」
いくつかの案が浮かんでは消えていき、最終的には暖かいものが良いという意見が決定打となった。
「とん汁なんて豚肉が入った豪華版味噌汁だと思えば作るのも楽だよな」
「………。そりゃそうだけど……」
「もうちょっと言いようあるだろ」
最終的には身もフタもない意見で締められてしまったが、具沢山のとん汁は寒い時期にはピッタリだ。わざわざ作ったものをそう無下にはしないだろうから、きっと2人も喜んでくれる。
「なー、里芋かゆいんだけど」
「ゴボウってフツーに切ってー?」
「ゴボウはあれだ、ササガケってやつだよ」
「ササガケってなん?」
「おー、大根向こう側が透けてる。すげー薄い!」
「………。それはさすがに薄すぎだ。もうちょっと厚めにしろよ」
「こんぐらい?」
「そりゃ厚すぎ。程度ってモンを考えな」
さすが合宿で朝ご飯を作っただけのことはあって、阿部と三橋の手際もなかなかのものだった。大量の材料はあっという間に細かくなっていく。
1人2杯と考えて、だいたい30人分を作る予定で材料を準備した。部活のお金は割かないつもりで、各家庭からの差し入れでまかなった。なるべく負担が偏らないように配慮した結果、肉が少なめになってしまったが、それも仕方がない。
栄養補給が目的ではないからそれでもかまわない。
遅れて入ってきた監督と志賀をお客様扱いで先に机につかせる。
2人の前に部員がズラリと並び、その中から代表者として花井が一歩進み出る。
「監督、先生」
「はい、なんでしょう?」
「オレらからのお歳暮食ってください」
てっきり「1年間お疲れ様でした」くらい言われるだろうと思っていたのだろう。予想外の花井の言葉に監督と専任教師は目をパチクリさせた。
(うまくいった)
それを狙っていた部員たちはガッツポーズだ。
「えーと、お歳暮?って?」
「1年間お世話になりました。来年もヨロシクお願いしますっ!」
『お願いしますっ!!』
その言葉に監督と志賀は嬉しそうに笑った。
「いただいていい?」
「もちろんス。あ、どっちがいいスか?」
用意した鍋は2つある。片方はごく普通のとん汁で、もう片方はキムチを入れて辛さを出した特性のキムチとん汁だ。
「僕は普通の味を」
「じゃあ私はキムチかな」
「オレらも食おーぜ!」
西浦に入って1年、このメンバーで何度も食事してきた。今年はこれが最後だけど、来年もきっと数え切れないほどたくさん食事を共にすることになるだろう。
1年間の感謝を暖かいとん汁と一緒に。
来年もどうぞよろしく!
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