白に想う

白に想う

(うわ、さっみぃ……)
 季節は秋も終わりに近く、特に早朝はずいぶんと冷え込むようになっていたが、今朝は外の空気がまるで刺すように染みる。そういえば昨日の天気予報では、「明日はこの秋一番の寒さになるでしょう」と、まるでひとごとのようにのんきな顔で言ってたっけ。くっそ、オレらは一日の中でも一番寒い時間から活動してるんだっつーの。何の責任もない気象予報士に心の中で悪態を吐いた。いつものように自転車を漕ぎ出すと、冷えた空気で鼻がつんと痛む。早く体を温まらせるために、オレは猛然と学校までの道のりを急いだ。

* * *

 最後の角を曲がって開けた視界の向こう側には、ぼんやりと白く彩られたグラウンドがあった。朝もやのせいなのか? いや、それだけじゃない。確かにどこかが違う。なんていうか、うん、こういうのを幻想的って言うんだろうか。霞みがかったグラウンドは、何だかその場所だけ現実から切り離されているようだった。思わず自転車を止めてぼうっとしてしまったオレの口からも、小さな雲みたいな白い息が漏れていた。その雲は空に上っていくわけもなく、頭の少し上の辺りで周りの空気に混ざって消えてしまうものだったけど。

「いずみー、はよーっす! 何してんのー?」
 不覚にも立ち止まって目の前の光景に見とれていたオレの背後から、田島の呼ぶ声がした。柄にもなく幻想的だなんて考えていたのが少し恥ずかしくて、思わずそっけない声色で「何でもねーよ」と答えてしまった。
「今日グラウンド白くねェ? いつもあんなんじゃないよな」
「んー? あ、言われてみるとちょっと白い! 何で何で?」
 気になることがあれば放っておけない性格の田島は、疑問を投げかけたオレよりも早く駆けて行ってしまった。この白いグラウンドの謎が解けてしまえば、またいつもの風景に戻ってしまうような気がして、少しもったいない。

 何やら隅のほうにしゃがみこんでいる田島の近くに寄ると、見て見てと腕を引っ張られて同じように腰を下ろすことになった。促された先に視線をやれば、白くほのかにグラウンドを飾っていたものの正体は、草木に降りた初霜だった。小さな葉の縁を覆うように、氷の粒がキラキラと朝の光を受けて光っている。それは分かってしまえば何の事はない、ただの自然現象であり晩秋の風物詩であったが、まじまじと眺めても尚、素直に綺麗だなと思えた。

「すげェな。いつものグラウンドなのに全然ちがって見える!」
「まーな。見慣れてる分、特によく分かるんじゃね?」
 辺りを見渡してみれば、車のフロントガラスにも周りの畑にも同じように白く霜が降りている。たぶんさっき通ってきた道もそうだったのだろう。寒さに肩をすくめるばかりで景色なんて見ていなかったから気づかなかっただけなのだ。
「雪で全部覆われんのとはまた別なもんだな」
 このグラウンド一面に雪が積もっているところはまだうまく想像できないけど。
「あー、オレ早く雪合戦したい!」
「もし降ったとしても積もるのはまだ当分先だろ。大体積もったら練習前に雪かきしなきゃいけなくなるんだぞ」
「そっか、雪かきはおもしれーけど、練習つぶれんのはイヤだ」
 田島は残念そうにぼやいて立ち上がったが、ふと、まるで小さな子どものように目を輝かせてこちらを向いた。
「なあなあ、黒い服の上で雪受け止めたらさ、結晶見えんの知ってる?」
 あれも綺麗なんだぜー、と言って笑う。小学校の頃に理科の実験で、虫眼鏡を使って雪の結晶を見たことがあった。同じ形のものはふたつとないのだという、六角の氷のかけら。あの結晶がひらひらと無数に空から舞い降りてくる様を思い浮かべると、何だかくらりと目が回るようだった。
「黒い服に付くと見えるってんなら、ユニフォーム着てれば見えるってことだよな。アンダー黒いし」
 それならみんなで見れるな。辺りに降りていた霜は朝日によって溶け始め、一層まばゆくきらめいていた。



たくさんの感謝とお祝いの気持ちを込めて。短くてごめんなさい。
Thank you for the novel that you wrote. And, congratulations on the birthday!
2007年11月10日 はな






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glint! のはな様にいただきました。
先日のキリリクのお礼&誕生日(私11月が誕生日なのです)のお祝いだそうですよ!
うわーうわー、私の文章がこんな形になって返ってくるとは思ってもいませんでした。
はな様、ありがとうございます!
11月の異称である<霜月>がテーマのお話です。
いずれやってくる冬を想う泉。「みんなで」ってトコがとても好きです。