夕日目指して青春まっしぐら




検 証 そ の 1(試 験 勉 強 に て)

 今日の勉強は図書室。
 いつも通り西広の周りには三橋と田島が並び、その他のメンバーは思い思いの科目を持ち寄ってはお互い教えあって勉強する。十人もいれば一人や二人くらい家で勉強する派がいてもおかしくないが、いつも決まって皆集まってくる。なぜ揃って学校で勉強するのかと問われれば、家には誘惑が多すぎるからだと皆は口を揃える。
「あーしまった。忘れてきた」
 スポーツバック(部活がない日でも野球部員は基本的にはスポーツバックばかりだ)をのぞいた沖が声をあげる。
「忘れ物か?」
「うん、教室に。どうしよ」
 貸せるものなら貸すが、今沖が手にしている筆箱だけでは彼がこれから何を勉強するつもりだったのかはわからない。
 明日の試験は数学T・世界史A・家庭基礎だからその三科目かもしれないし、もしかしたら明日の勉強は家に帰ってからするつもりで学校ではあさってのオーラル・保健・国語総合を勉強していくのかもしれない。
「教室まで戻るのはめんどうだなー」
「沖、はい」
 顔をしかめる沖に隣の机から回されてきたのは世界史の資料集と用語集だった。
「西広今日は使わないの?」
「うん、三橋と田島のもあるから大丈夫」
「じゃ、ありがたく借りるよ。サンキューな」
「どういたしまして」
 別に不思議なことなんて何もない。教室できっと今日勉強する予定の科目について話していたんだろう。同じクラスなのだから、それくらい話していてもおかしくはない。
 阿部と三橋はクラスが離れている分少し不利だが、その分部活中の会話を心がければよい。
 三橋はなにか忘れ物をしていないだろうか。勉強に必要なものはないだろうか。阿部は気になってちらちらと見る。
「なんだ阿部、にらむなよ、オレ今日はまだ騒いでないって」
「いや、別ににらんでねーよ」
「にらんでるって。三橋がこわがってんじゃん」
「………」
「貸してほしいもんがあるなら貸すぞ?オレあんま書き込みしてねーけど」
「いや、遠慮しとく……」
 阿部は思う。沖が何を忘れたのかにすぐ気付いた西広。これこそかゆいところに手が届くであると。
 そんな関係になれるよう、やはり阿部も三橋との日々の会話を大切にしなければならない。





検 証 そ の 2(コ ン ビ ニ に て)

「今日も練習疲れたよなー」
「最近ますますハードだから、仕方ねーよ」
 練習の帰りはどんなに疲れていても、基本的に急ぎの用事がない限り皆コンビニに寄って帰る。帰ったらご飯が待ってはいるが、使い切ったエネルギーを補給しなくては家までたどり着くことすら難しい。
「三橋は今日何にするの?カップラーメン?」
 三橋は基本的に優柔不断である。投げているときはたいそう男らしいと女子に評判らしいが、肉まんかおでんかカップラーメンかオニギリかパンかアイスかで悩むその姿は投手の三橋とは別人のようで、千年の恋も冷めるかと思われるほどのギャップだ。一人きりで放っておいたら何分でも悩んでしまうので、適当な頃合を見計らって誰かが声をかけて促してやる必要がある。
 今日三橋についているのは西広だった。彼らはカップラーメン売り場の前で悩んでいた。
「オレはシーフードかな、カレーも好きだけど。三橋は?」
「オ、レ、どっちもスキだ、よ!」
「そうだね、でも今日は暑いから……」
「カ、カレーにする、よ!」
「うん、それがいいかもね。じゃレジ行こう?」
「う、ん!あ……。西広くん、は?」
「オレ?大丈夫。もう選んでるから」
 そういいつつも、西広の手には何もない。
 コッソリ棚の陰からのぞいている阿部からは西広の手元が見えないのかもしれないと思ったが、レジへ向かう西広の手にはやはり何も握られていなかった。
 コンビニの外では沖がピザまんとアイスを持って立っていた。ピザまんかアイスかどちらかが西広の分に違いないだろうが、コンビニに入る前に沖と西広は会話をしていたようには見えなかった。沖はいつ西広のリクエストを聞いたのか?
「西広、今日はピザまんの気分だろ?」
「よくわかったね沖。そ、今日は肉まんよりピザまんの気分!」
「はい、105円です」
「ありがと」
 阿部は思う。西広はおそらくリクエストを言いもしなかっただろうし、沖もきっと聞いたりはしなかった。それでもお互いの状況を把握している。これこそかゆい所にてが届くであると。
 そんな関係になれるようにやはり普段から三橋の様子を把握しておかなくてはならない。




検 証 そ の 3(合 宿 夕 食 に て)

 今夜のメインは餃子。さすがに皮から手作りしたわけではないが中身の餡は工夫を凝らしたものだし、全員で協力して包んだ。店で売っているものほど美しくは出来なかったが、数百個の餃子は焼き餃子・揚げ餃子・汁に入れる水餃子にと分けられ、13人の胃袋におさめられるのを待っている。餃子は手間がかかる分ホカホカと湯気をあげてなんともうまそうだ。
「餃子どーやって食うの?考えてみりゃタレ買ってねーよな?」
「タレなんかいらねぇよ、酢醤油で食え」
「えー、すっぱい」
「だから体にいーんだろ?最近酢ってハヤリじゃん」
「あ、オレんちも酢醤油だ。餃子についてるタレとかすぐなくなるんだよなー」
「そーそー、しかも自分で濃さも決められるし」
「オレマヨネーズがいい」
「うわ、ありえねぇ」
「じゃドレッシングは?」
「それもありえねー」
「オレ塩でいいんだけど」
「オマエラ大人しく酢醤油にしとけ!」
 なんだかんだと揉めても、楽しい食事が始まれば用意された大量の食物はにあっという間になくなっていく。
「沖悪い、アレ取って」
「ああ、はい」
「ありがと」
 沖が西広に手渡したのは醤油だった。
 その様子を見て阿部は思った。これこそ夫婦だと。
 かゆいところに手が届くように常に相手の必要なものを感じ取り、手助けする。阿部は一つの決意を固める。
「三橋、酢いるか?」
「い、いらな、いよっ」
「三橋、醤油いるか?」
「い、いらな、いよっ」
「三橋、なんかいるもんないか?」
「な、ないよ……?」
「なー阿部」
「なんだ泉」
「キモイ」
「………」



 阿部少年の飽くなき挑戦はこれからも続く。いつか三橋と本当のバッテリーになれることを目指して。
 たまに思いが先走りすぎて暴走することもあるけれど、それはまた別のお話。