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雪と戯れて(3組)
埼玉にしては珍しく冷え込んで、雪が積もった日。
休憩時間のたびに教室後ろのストーブには人だかりができ、窓ガラスは露が垂れるほどに結露している。
窓の外に目をやれば、一面の白化粧に教室の中がいつもよりもあたたかく感じる。
(今日みたいな天気だと、外の仕事の人は大変だ)
監督はこんな日でも変わらずアルバイトだろうか。
「沖、次移動だよ。そろそろ行かない?」
時間にはまだ余裕があるが、教室にはあっという間に人間の姿がなくなっていた。次の移動は視聴覚教室。「情報」の授業だ。
視聴覚室はパソコンが設置されているおかげで常に温度が一定に保たれ、しかも足元にも温風が出る仕組みになっているので非常にあたたかい。
「ああ、うん。行く行く」
ロッカーから教科書とノートを取り出して西広の後を追う。
視聴覚室はインターネットもできるので基本的に生徒は皆大好きだが、問題はそこまでの道のりにある。
近道である渡り廊下は吹きさらしのため、秋頃から通るのがつらくなってきた。特に今日は、雨ならまだしも雪が入り込んでしまっている。それでも寒さと早さを天秤にかけた結果その渡り廊下を通行する生徒は複数いるらしく、人の通った跡が見受けられる。
「どうする?」
「どうしよっか」
目の前の渡り廊下を突っ切ってしまうか、それとも少々遠回りだが寒くない廊下を行くか、選択肢は二つに一つ。
「行っちゃおうか。近いし」
扉を開いた瞬間流れ込む冷たい空気に、道行く人の視線が痛い。居心地の悪さも手伝ってそそくさと扉を閉める。
『寒い!!』
当たり前だけど、息を吐けば真っ白だ。
(しみじみ冬だなぁ)
向こうの棟までは距離にしておよそ15メートル。数秒だからこそ耐えられるこの空気だ。
「沖、ほら花井たちだよ。これから体育みたいだな」
「え、こんな日でも外で体育?」
渡り廊下から見下ろすと、ぞろぞろとグラウンドへ向かう生徒がちょうど下を通っていくところだった。
(うわー、気の毒)
「オレらこんな日に体育なくて良かったよね。でも体育もだけど、部活何すんだろ」
こんな日の体育はさぞかし寒いだろう。夕方の部活も思いやられる。
(そうだ!)
「西広、ちょっとしゃがんで」
「ん?何?」
「いいから早く。こっちこっち」
手招きして呼び寄せて、7組がやってくる方角と反対の端にしゃがみこむ。しゃがんでしまうと下から2人の姿は見えない。
「寒いよ沖。早く行こう」
目指すは暖房のしっかり効いた視聴覚室。あそこまでたどり着けばどれほど暖かいだろう。でも思いついてしまった計画を、実行せずにはいられない。
「いいから、ちょっとオレの持ってて」
いぶかしがる西広に教科書や筆箱を渡す。
「何すんだ?」
「いたずら」
茶目っ気たっぷりに笑って手近な雪を持てるだけすくうと、こっそり階下をのぞき見してタイミングを計る。
「まさかとは思うけど、止めといた方がいいよ」
「大丈夫だよ、ここ2階だからね。オレらの姿は見えないよ。よし、今だ!」
野球部の3人がまさしく下を通り過ぎる瞬間、手にした雪をばら撒いた。
「西広、走れ!」
「ええ、ちょっと沖!?」
腕を引っ張られ雪に滑りそうになりながらも、西広は2人分の荷物を抱えて走り出す。下の方ではかすかな叫び声が聞こえた気もするが、どうなったのか確かめるすべもないし、実のところ確かめるのも恐い。
視聴覚室へ駆け込むと暖かい空気に迎えられるが、逆に空気がこもっているのに気づく。雪降る空気は冷たいが、一度慣れてしまえば外の方が新鮮で清々しかった。
「はー、寒かったー!」
「寒かったーじゃないよ沖。後で怒られても知らないぞ」
「多分オレらとはわからないよ。案外屋根にたまった雪が落ちてきただけだって思ってくれるかもしれないし」
「立って走ったときに頭見えたかも。オレ知ーらない」
「そりゃないよ西広。一心同体一蓮托生。怒られるときは一緒だろ?」
「そんな一心同体オレはいらない」
「そういうなよ、仲良く花井に怒られようよ」
「いーや、オレは遠慮するね、オレ何もしてないからな!」
「つれないこというなって」
「つれなくて結構!」
口ではそう言いながらも西広は笑顔満開。きっとバレても一緒に怒られてくれるだろう。
こんな風に冗談を言い合えるようになったのも、あの野球部の影響なんだろうか。
放課後それとなく、今日事件があったかどうか7組に聞いてみることにしよう。
(ま、楽しいからいいか)
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