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雪と戯れて(9組)
「すげー、雪だ雪!白いぞ!」
「ゆ、雪だ、ね」
雪は朝からほとんどとけることなく、一日の過程はすべて終了した。9組きっての野生児田島と、田島につられて野生児化した三橋は朝から大興奮だ。休み時間のたびにベランダに出ては雪で遊んでいる。
「こんな積もったのも久しぶりだよな〜。さみィ」
今にも教室を飛び出していきそうな2人を留めつつ、明日の日課を確認する。
「これじゃ野球できねーな。つまんね」
「そ、れはやだ……」
「お天道様には逆らえねーよ。我慢しろ三橋」
「今日ってもう連絡きてたか?」
「いーや、まだだな」
雪は止んだが天気は生憎の曇り空。いくらスライディングをしても、敷き詰められた白いじゅうたんはあたたかく迎えてくれそうにはない。
雪が降った日の部活はなんだろう。天気の悪い日には誰かからやってくる業務連絡を待つ。
「な、野球はできねーけど、グラウンド行こうぜ!」
「言うと思った。こんなさみィのに何すんだよ?」
掃除時間に教室のストーブは切られてしまったが、それでも廊下に比べると格段にあたたかい。いわんや、外をや。である。
「雪で遊べばいいじゃん。なぁ三橋行こうぜ!」
「う、うん。オレ、行くよ!!」
田島が三橋に誘いをかければ、三橋は二つ返事で了承する。
「ほら、泉も行くだろ?」
キラキラとした期待に満ちた瞳が4つ。
(そー誘われたら嫌とはいえねーだろ?)
「しゃーねーな、わかったよ」
逸る気持ちを抑えきれないのは自分も同じ。寒い寒いとは言いながら、結局は素直に田島と三橋の後を追って廊下を駆ける。通りすがり7組に寄って先にグラウンドに行っていると告げる。校内練なら戻らなくてはいけないのが面倒だが、それでも今日部活が中止になればそのままグラウンドで思いっきり体を動かすことができる。
(やっぱマジさみィ)
こんなときは思いっきりペダルをこぐに限る。自転車に飛び乗ってわき目も振らず第2グラウンドを目指す。校舎から離れたグラウンドの雪は、まだ誰に踏まれた気配もない。
「3人だと雪合戦やってもつまんねぇけど、どうすんだ?」
「た、田島くん。ど、どうし、よう?」
「うーん、そうだなー。よし決めた、雪だるま作ろう!」
「雪だるまァ?そんな年かよ。ガキじゃねーっつの」
(この年で雪だるまとか、勘弁しろよ)
「いいじゃん雪だるま。オモロイって。なぁ、三橋、雪だるま作ろうぜ!」
「ベランダでも作ってたじゃねーか」
「だってベランダは雪が少ないからちっこいのしかできなかったし」
「う、うん。オレ、作るよ!」
やはり二つ返事で了承する三橋。2対1ではどう考えてもこちらの分が悪い。
「ほらなー」
「い、ずみく、ん!」
キラキラとした期待に満ちた瞳が4つ。見返せばますます輝いていく瞳に、またしても嫌とはいえなかった。
「チッ。しゃーねーな」
「三橋、ほらそっち持て」
目の前には一人では抱えきれない雪玉が一つ。その向こう側に、さらに大きな雪玉が一つ。胴体の上に頭を乗せれば雪だるまは完成する。3人で転がしまくったおかげか、雪だるまは非常に大きく育った。
「こ、う?」
「そうそう、じゃ行くぞ」
掛け声に合わせて雪玉を持ち上げる。とりあえず胴体の高さまで持ち上げればいいが、何かおかしい。
(んん?)
「田島、ちゃんと持てよ!」
「チェ、バレたか」
田島が舌を出すと、重たかった雪玉が少々軽くなる。
「バレたか、じゃねーの。3人で持っててあんな重いワケねーだろ」
「わーったよ、ちゃんと持つ!」
「崩れねーように持てよ」
「が、頑張る、よ」
カニ歩きをしてそろそろと胴体を目指す。
「ほらいくぞ。せーのっ!」
『せーのっ』
ドスン。
「できたぁ!」
「すげー、でかいのできたな」
「なぁコレ札幌雪祭りに出そうぜ。こんだけ大きいんだし、賞取れるかも!」
(そりゃー無理だろ)
「で、できた、ね!」
「雪だるまなんだから、顔つけてやらなきゃかわいそーだよな」
「ま、ずは目!」
「雪だるまの目っつーと、ミカンか?」
「でもココグラウンドじゃん。ミカンなんてないし……」
「か、監督に、あ、甘夏もらえば!」
春から夏にかけてはよく監督から甘夏をもらった。監督自身も近所からもらってきたもので、大量の甘夏をもてあましていたらしい。
「甘夏ってこの時期にあんのか?いくら雪だるまがデカイっつっても、甘夏はさすがにな」
「そうだなー」
キョロキョロと辺りを見回した田島は目を輝かせる。
「これでいいじゃん!」
「枯れ木?」
「これをこーして……。できた!」
『!?』
田島の横から覗き込むと、木の枝で作られた顔に見据えられる。
「………。なぁ三橋」
「な、何?泉、くん」
心なしか三橋の声がいつもより震えているように聴こえる。
(おいおい)
「この雪だるま、誰かに似てね?」
「に、似て、る……」
どこか見覚えがあるその顔に思わず力が抜ける。田島作の雪だるまはここにはいないある人物を思い出させる。
「ぎゃはは、阿部そっくり。名付けて阿部だるま、一丁上がり!」
「すげーな田島。阿部ができたぜ」
「だろだろ?この目と鼻の具合とかそっくりだろ?我ながら力作だ!」
「で、でも怒、られない?かな」
「だいじょーぶだって」
三橋は不安げに自転車置き場を見やる。乗ってきた3台以外の影はない。
(そういや、今日練習ないのか?)
すでにいい時間がたっている。雪玉を転がすのに一生懸命で置きっぱなしにしていたが、マナーモードを解除した携帯電話に着信があった様子はない。
(そろそろ連絡くらいあってもいーんじゃねェの)
「阿部が見たら多分怒るだろうな」
「ヘーキヘーキ。作ったのオレらじゃないって言えばいいじゃん」
(そりゃ無理だ)
ピリリリリ。
その途端に鳴り出す携帯電話を慌てて手に取る。液晶に映る電話主は花井梓。
「はいよ!」
「おーす。今日はグラウンドな。お前らもう着替えてる?」
「まだ」
「お前らも着替えとけよ。練習着じゃなくて体操着でもいいってさ」
「わかった」
体操着でもいいということは、今日の部活は雪遊びだと想像される。
「聞こえたか?」
「おー、着替えに行くか」
「う、ん!」
さすがにベンチ前で着替えるのは寒いため、いったん部室へと向かう。
せっかく作った阿部ダルマとはしばしのお別れだ。
(また後でな)
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