|
6:本番を迎えて
迎えた学校祭当日。校内は学校祭ムードで一杯。校内に施された飾り付けが、学校行事に興味のない生徒にも否が応にでも今日が学校祭なのだと知らしめている。
野球部はラグビー部と合同で練習を重ね、踊りや位置確認にもそこそこ力を入れてきた。
それぞれのユニフォームを着込んで、志賀が手配してくれたハッピ2種類を各部で羽織る。ハッピといっても普通の祭で見るようなものではなく、ソーラン節用のちゃんと丈の長いハッピだ。頭にハチマキを、お揃いの布を手首に巻きつけて準備は万端。
野球部10人は舞台上手から、ラグビー部選抜10人は下手から登場することになっている。前の陸上部が学校クイズをしている間を舞台袖で待つ。
「やばい、オレけっこう緊張してる・・・・・」
大きな声は厳禁。こそりと西広が巣山に耳打ちする。
「初フライキャッチのときとどっちが緊張してる?」
「………。フライんときかな?」
野球部らしく頼もしい答えに周囲が笑う。
「なら大丈夫だよ」
「オレも練習試合でマウンド立つときの方が緊張してるよ」
「沖もか、実はオレも」
「ええー、花井は人前に出んの慣れてるだろ?」
「とはいってもこんなのはやったことねーからな」
「じゃあ抽選会とどっちが緊張してる?」
「それは選びがたいな」
「なになに、皆実は緊張してんの?」
「なんだよ、お前はしてねーのかよ」
「オレもフライキャッチのほーが緊張する」
「水谷らしーの」
「オメーは前科があっからな」
話していると少し気がまぎれるが、いつの間にか陸上部の出番は終わり会場は採点に入っている。
「さっ……」
「なんだ三橋。どうかした?」
「さっ、」
『さ?』
「さっ、サードランナー!」
「ああ、サードランナーか」
慣れたもので、皆心得顔だ。
緊張回避のために叩き込まれた西浦野球部だけのリラックス法。案外、グラウンドから離れたこんな場面でも役に立つのかもしれない。
しかし問題がひとつ。ここは体育館なので3塁ベースもなければサードランナーもいない。
「しかし困ったな。こーゆー場合、何を見るべきだ?」
「司会者」
「いや、審査員だろ」
「ラグビー部でいいじゃん?」
「いや、何もなくていいよ。サードランナーなんてイメージなんだからさ」
栄口の言葉に従って目を瞑る。
さすがに場所を考慮して手をつなぐことは控えた。舞台袖の暗闇の中、男子が10名手をつないでいたらさぞかし不気味だろう。いろんな意味で誤解も招きそうだ。
舞台上手にはしばしの沈黙が訪れる。
「次は野球部&ラグビー部の合同チームです!それではどうぞ!」
元気の良い学校祭実行委員の合図に慌てて舞台に並ぶ。
時間としてはほんの数秒で10秒にも満たないほんの少しだったが、それだけでも充分。驚くほどに気分が落ち着いている。
「がんばろーぜ!」
「後ちょっとよろしくな!」
隣り合ったラグビー部員と手をたたく。あるいはグッと親指を立てる者もいる。
同じグラウンドを使う部活でありながら、同い年でも名前も知らない奴も多くいた。9クラスもあれば知らない人間の方がはるかに多いのは仕方ないことではあるけど、今では隣のクラスで出題された小テストの答えを回し合えるくらいには仲も良くなった。
ソーラン節で水谷がこだわったのは、曲が始まって最初の40秒と最後の部分。
ソーラン節の最初は掛け声も何もなくひたすら動くだけ。始まって40秒もたてば音頭が入るのでものめずらしさに観客の目を舞台に集中するだろうから、それまでの40秒でどれだけ観客を惹き込めるかにかかっている。
体を低くする部分は低くする。跳んで腕を上げる部分はきちんと伸ばす。絶対にだらしなく曲げたりしないように。
それだけを水谷は口がすっぱくなるほど繰り返し、監督と志賀も「恥ずかしがって踊る人間を見ているほど、恥ずかしいことはない」とのアドバイスをくれた。
「あーどっこいしょーどっこいしょ!」
『あーどっこいしょーどっこいしょ!!』
「ソーランソーラン!」
『ソーランソーラン!!』
まだ練習が始まって間もない頃、花井が妙に恥ずかしがってなかなか音頭をとってくれなかったのでラグビー部の代表が音頭役を務めている。
ラグビー部1年の残りの人間がギャラリーからスポットライトを照らしつつ同じように声出ししている。また観客の中に混じったラグビー部の2・3年生も声を出すので体育館のあちこちから「どっこいしょ」や「はいはいっ」といった合いの手が入る。
観客のノリも良い。観客のウケも良いから部員の士気も上がる。
動きはいつもよりなめらかで、おまけに声もよく出る。いい感じだ。
本来ソーラン節は3〜4分の長さの曲が主だが、移動の部分も考えて実際のソーラン節よりも長めに編集した。いわば西浦高校の特別バージョンのソーラン節といったところか。
捌けてはまたステージに戻り、ひとしきり踊ってはまた捌けることを繰り返す。
「つ、疲れる・・・・・」
「泉がこっちにいるってことは、まだもっかい繰り返しがあるよな?」
「そーだよ。最後はオレはあっちから田島と対になって出てくるからな」
移動が目まぐるしいので、捌けるたびにお互い場所の確認をする。
「やべ、オレ今あっちにいるはずだったかも」
「マジ?しょーがねーよ。次出たら急いで端まで走れよ」
「おー、そうする」
ちょっとしたハプニングはあるものの、ほぼ予定通りに本番は進んでいく。
曲を長めに編集した分、一人ひとりの見せ場も多く作られている。
誰もが必ず1度は最前列に出られるし、ひと悶着あった決めポーズも数人にとっては大きな見せ場だ。
監督と志賀に怒られたせいもあるが、片手跳びはやはり危険だという話になった。両手でもそこそこの迫力は出せるはず。そこでステージ後方で10人ピラミッドを作成し、ピラミッドができるまでの間を残りの10人がバク転や前方倒立回転跳びをぶつからないように交差に跳んで埋める。それだけでも運動部らしいダイナミックな動きができた。
最後の瞬間に合わせてソーラン節ではお決まりの、拳を空に突き上げるポーズをとる。
本番の出来が一番良かったと誰しもが思ったが、ソーラン節は3位に終わった。
今年の1位は山岳部のコント。2位は家庭科部の手作り衣装によるファッションショー。
残念だが、山岳部は確かにおもしろくて会場中を大爆笑の渦に巻き込んだ。家庭科部の衣装もデザインから仕立てまでどれほどの手間がかけられているかも同時に紹介されていて、特にトリを飾ったウェディングドレスには会場からは感嘆のため息が聞こえてきたほど。
そして野球部が手に入れたのは3位の賞金3万円の、そのまた半分の1万5千円。1位の12万円・2位の6万円には遠く及ばない金額だった。1万5千円ではたいして部費の足しにもならない。
それでも賞金以外にも手に入れたものもある。
「忙しくはなったけど、やってみてよかったと思わねぇ?」
「オレも、やってよかったと思うよ」
「1位取れなかった上に練習時間まで削っちまってモモカンには申し訳なかったけどな」
「1万5千か。んでハッピのクリーニング代もそっから出すんだろ?あんま残らねーかも」
「目的は当初と変わっちまったけどな。ラグビー部とつながりができたってことだけでも良しとするさ」
「そーゆーことにしとくか」
野球部だけがそう思っているのではなく、事実学校祭後にラグビー部の面々からは嬉しい言葉もいくつか聞けた。
「おもしろかったな!」
「お疲れさん」
「また一緒にやろーぜ!予餞会とかどーよ」
「お前らに混ぜてもらってマジ助かった。つかマジ良かった。これからもよろしく頼む!」
今回の学校祭一番の収穫は、ラグビー部と部活同士横のつながりを作れたこと。
「こっちこそこれからもよろしくな!」
個人では仲の良かった人間がいても、部活としては別段仲が良くも悪くもない。むしろ同じグラウンドを使用する現状に対する、心の底には複雑な感情が入り混じった間柄だった2つの部活。
今は互いの試合スケジュールなど関係なく曜日や時間帯でグラウンドの使用時間は決められている。これはこれで楽でいいが、でもいずれ今の1年が上になった頃には、お互いの試合スケジュールに合わせてグラウンドを譲り合うということも可能かもしれない。
いがみ合うより仲良くできるならその方が良いに決まってる。
表立って口にはしないが皆きっとそう思っている。
もう踊ることもなくなったベンチ前。以前と変わらない練習がまた始まる。
「さあ、秋大に向けてまた頑張るよ!」
『ハイっ!!』
←5:怒られた理由 →小説TOPへ:小説TOP
|