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2:今日はミーティング!
今日の議題は学校祭の部活動発表の演目について。
首脳陣だけで勝手に出場を決めて申し込みも済ませてしまったことについて、他の部員からは多少のブーイングが出た。
夏体はもうすぐ始まる。ただでさえ層の薄い西浦では個人が技術の向上を誰より目指している時期だったから、練習時間が削られてしまうことがその最たる理由だった。練習時間短くなってラッキー!と言い出す部員がいないことの方がいっそ疑問に感じてしまう。
ただ花井が金一封のことに触れると、もう誰も何も言わなかった。部が始まって数ヶ月。小・中時代を思い出して親兄弟と会話を交わすと、監督が自腹を切って様々な用具を揃えているこの現状がどれほどに異常なことか、部員にも少しずつわかってきた頃だ。
部員を操縦するとき以外に監督からそれを恩に着せるような発言は一切聞かないが、そんな監督を思いやれる程度には、西浦野球部はできた子どもたちだった。
志賀と栄口が放課後に視聴覚室を手配してくれた。大画面にハンディビデオをつないで昨年度の学校祭ビデオを皆で鑑賞する。
見ていてやっぱり盛り上がったのは水泳部のシンクロナイズドスイミング(を模したなんちゃってバレエ)で、圧巻だったのは美術部の似顔絵一発書きだった。部活でネタにできるものがあるのは正直うらやましい。野球部がキャッチボールを体育館内でしても特に面白いと思えない。
「スゲ、マジ見えそう!」
「でもキモイ。観客見ろよ、親はカンペキ引いてるぜ」
昨年度優勝した文芸部が何をしたかと思えば自作小説の朗読劇だった。一見地味だがなかなか出来が良いと評判で、下馬評にも上がっていなかった文芸部が優勝を決めたらしい。
ほとんどの部活が参加するから、それぞれに与えられた時間はせいぜい5〜6分。
一通りビデオを見終わってミーティングの体制に入る。進行役は花井。
「さて、誰か案あるか?否定的な案でもいいけど」
花井が見渡すと手があがった。
「んじゃひとつ」
「はい阿部」
「コスプレは盛り上がるけど金がかかる」
しごく現実的な意見だった。金を稼ごうとしているのに遣ってしまっては意味がない。
「えー、そりゃ買ってたら高いけど。コスプレなんてなんでもいいだろ」
「身の回りの服かき集めてみたらいいんじゃね?」
「オレらの身の回りにあるっつったらハハオヤかアネキのがほとんどじゃねーの。誰が割烹着着たオレら見て喜ぶんだよ」
「いやー、ボクは割烹着着て踊ってる君らでも楽しめるけど」
一瞬その姿を想像してしまったが、あまり楽しくない。
「せんせー審査員なんすか?」
「残念だけどね、審査員からは外れてるよ」
「じゃあ野球部に点入れてもらうわけにはいかないのか……」
「あー、そういわれるとそうかも。せめてチャイナとかレースクイーンのでもあればなぁ」
「よりによってそこかよ」
「うちにはどう考えてもないよ」
「つか、一般家庭にはねぇだろ。普通」
「コスプレならナースも欠かせねぇ!」
「あとはメイドだろ、セーラー服だろ!」
顔を見合わせてうっとりつぶやく。
『いいよな〜』
「コラコラ」
はっと気づくと志賀と監督、それにマネージャーの困った顔が目に入る。
志賀あたりはうすうす感づいているかもしれないが、監督は金一封の話を知らない。内緒にしておいた方が美談だし、宣言しておいて1位が取れなかったらそれはそれで恥ずかしい。
「時間は無限じゃないからね、脱線し過ぎないように。今日中にあらかた決めちゃってよ?」
『ハイ!』
気を取り直して、と会議が再開される。志賀と監督は学校提出用の書類作成に職員室へ戻った。生徒を連れて遠征に行くには、複雑な書類をいちいち提出しなければならないらしい。
「コスプレファッションショーはムリかな、受けがいいけど。誰かそれ系の服持ってる?」
当然だが、誰も手を挙げたりしない。一般家庭のタンスにナースやメイドの制服が納められているとしたら、それはそれは不思議な家庭といえるだろう。
「しかもオレらの人数じゃファッションショーには足りないだろ。11人しかいねぇんだし」
体育館のステージはそんなに広くない。コスプレしてステージを横切るだけで1人何十秒も間を持たせられるとは思えない。
「ハイハイ!オレ脱ぐの早いよ!着るのも早い!」
「田島だけ早くてもな」
「え〜、オモロイのに……」
「じゃあ創作ダンスとか」
「いちから作ってる時間はないよ」
「でも真似するくらいなら?」
「ええ〜、ダンスぅ?」
「オレムリ。踊れねぇよ」
「だから、ダンスっていうからヒップホップなイメージしか浮かばねぇんだよ。踊りっつやぁどうだ?」
「踊りって盆踊りか?」
「アイドルグループのだったら女受けはいいかもな」
「浴衣着て踊るか?おもしろくないな」
「オレ浴衣持ってない」
「じゃあよさこい」
「よさこいってドコの踊り?」
「それならオレ神楽とかやってみてぇ」
「さあ知らない。浮かんだだけ」
「阿波踊り。ドジョウすくい」
10人がそれぞれ自由に口を開くので、かみ合っていないように思える会話だが、ギリギリのところで通じ合っている。
「ちょっと待て。何をやるにしても見本はどうすんだ。曲もいるだろ」
「動画がネットで探せばあるだろ。後はそっからダビングするなりすりゃいいよ」
手近にあったパソコンを1台立ち上げる。
「それにしたって、オレらにもできそうかは実際見てみなきゃわかんないよね」
「じゃあどうだ?映像見てオレらにも踊れそうならやってみっか?」
改めてそう問われると、今まで踊った経験も特にないから自分にできるのかさえもよくはわからない。お互いの顔色を伺いつつ賛成すべきか反対して別の案を出すべきか迷う。
「踊れそうなら、な」
さっきまで盛り上がっていた勢いはどこへやら。実際やるとなると、できそうなものか判断に困る。
「少なくとも去年はどの部活もそんな演目なかったし、やってみる価値はあるんじゃないかな?皆ならどんな踊りでもある程度踊れると思う」
やってみたい気はする。が、自分が言い出すのは気が引ける。そう思っているところへ鶴の一声、篠岡の発言。
それに勇気を得て花井がパソコンに向かう。
「よし、まずは確認してみっか」
ようやく立ち上がったパソコンで検索すると、祭の写真が多くヒットする。赤・白・青。思っていたよりもカラフルなハッピとハチマキに身を包んだ男女が道路で踊っている。
「オレ『よさこい』夏祭りで見たことある。目の際に赤と鼻に白い化粧して踊ってた。んで、手に何か音の鳴るの持ってた」
「コレか?鳴子ってゆーらしいよ」
「見たカンジ全員持ってるみたいだな。でもこんなのどっかで売ってるもんか?」
「見たことねー」
「オレもない」
「踊りはカッコいいけど、道具使うのは難しいな」
「『ドジョウすくい』は?」
花井からバトンタッチを受けた阿部の手がキーボードをたたく。
「ひょっとこの面が10個も手に入るか?」
「あ〜、腰に来そうな踊りだな」
いろいろな案が出ては消えていき、最終的に残ったのは北海道のソーラン節。思いついた中で唯一道具を使わなくてもできそうな踊りで、漁師たち男の踊りという点も気に入った。勇壮な掛け声がいさましい。
「せめてハッピがあれば見栄えいいかも」
「だな。別にどんなでもいいし。コレくらいはオレらで探してみようぜ」
「つか今さらだけど、お前らも踊りでいいのか?まだ漫才とか合唱ってな案もあるけど」
「せめてコントっていえよ」
「男10人で合唱してもな」
「ソーランいいじゃん!ソーランソーラン!ってな!」
これにて今日のミーティングは終了。学校祭の演目はソーラン節に決定!
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