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3:仲間が増えたよ
ネットから落とした映像をROMにダビングして部室に置いておく。それとは別に家に持ち帰れる用に人数分ダビングする。各自が暇な時間を見計らって、1週間に1度は踊りを眺めることができるように。
監督とも相談して本格的な練習開始は夏休み後半から始めることにした。1学期から意気込んでも良かったが息切れするかもしれないし、短期集中の方がイベントらしく盛り上がれる気がした。しばらくは野球の練習に追われてソーラン節のことなんて忘れてしまうだろうけど、DVDかVHSかのどちらかがあれば家でも練習可能だ。お互いの家に遊びに行ったときにでも再生して遊べば良い練習になるはず。
それから、デッキのないグラウンドでも練習できるようハンディタイプのビデオカメラを志賀が貸してくれた。当面踊りを覚えるまではそれが活躍するだろう。さすが2児の父、アットホームアイテムには事欠かない。
世間は夏休みだなんだと浮かれていても、どのみち部活のある野球部は毎日学校へ来ている。いつも第2グラウンドへ直行するため、登校日という理由で今日は久しぶりに校舎に入った。
ホームルームもそこそこに、体育館にギュウギュウと詰め込まれた生徒たち。バレーコート2面がぎりぎりの体育館では左右前後の人間との距離が近い。
校長先生のありがたいけど長い話は高校でも変わんないなとか、夏休みではじけちゃった人間を取り締まる頭髪服装検査がめんどうだ早く終われとか、きっと誰もがそんなことを考えている。すし詰めに近い状態で、生徒のイライラのボルテージはきっともうすぐ最高潮。
例に漏れず野球部のメンバーも皆疲れた顔をしている。太陽に照らされた暑さと、湿度たっぷりの暑さとどちらが好みだろうか。
全校生徒が集合しているため、誰も話していなくてもざわざわしている。
「なあ泉」
ちょいちょいと後ろから服を引っ張られて振り向く。出席番号は泉よりも2つは離れているはずのクラスメートがすぐ後ろにいた。
「どうかしたのか」
「いや、あのさ……」
話しかけてきた彼はやけに冴えない表情をしていた。わざわざ校長講話の最中に話しかけてくるのも珍しい。
言おうか言うまいか、ためらいがちだった彼は意を決したように口を開く。
「ちょっと頼みがあんだけど・・・・・」
いくら生ぬるくても、やっぱり風が吹いた屋外の方が気持ちいい。
今日は昼練の前にビデオを見ながら踊ってみる予定だったが、弁当を囲んで臨時首脳会議が催される。
「どうする?」
「どうするっつってもなー」
「別に一緒でも悪くねぇとは思うけど」
「けど?」
「取り分が減るな」
全校集会の最中に泉に話しかけてきたのは同じ第2グラウンドを主な練習場所とするラグビー部の一員だった。学校祭部活対抗の企画に一緒に参加させてもらえないかと頼みに来たのだ。直接花井に話を持ち掛けなかったのは、ラグビー部1年の代表でもある彼が泉と同中出身で、他の9組メンバーと気安く会話する仲だったからだろう。
泉としても即答はできず、一時保留のまま花井へ話を伝えたのだ。
合同参加が可能なのか志賀に確認してもらったところ、それは可能だという話だった。時間も2団体分足した時間が使えるが、仮に上位入賞を果たしても賞金は倍になったりはせずに折半しなければならない。
「オレらのメリットは時間が倍になるってことくらいか」
「それはありがたいけどな。オレらだけの時間じゃソーラン節1曲の時間でギリギリだったし」
「確かあいさつの時間がほとんど取れそうになかったね」
「人数は増えるから印象には残るだろうな。ラグビー部ならスポットライトに回しても余るだろうぜ」
「金一封にこだわるか、インパクトでいくか・・・・・」
「他のヤツラは?そういや泉は何て?」
「一緒にやったらちょっと楽になるんじゃねえかって言ってたよ。ラグビー部のヤツラならグラウンド同じだし練習も集まりやすいんじゃないかって」
「それは一理あるな」
「いちお着替えのときにでも皆に聞いてみるか。特に嫌がるカンジがなければ一緒にやるってことで」
「お、花井にしては即決だな」
「まな、オレラグビー部のヤツラ嫌いじゃねーし。コレを機に親睦を深めてもいいだろーと」
「おー、積極的ー」
「ってシガポが言ってた」
「シガポかよ!」
「ま、そーゆーことだ。いいか?」
「いいよ」
「オッケー」
野球部では必然的に1年生が企画して発表するしかないが、ラグビー部では1年生が学校祭の出し物を担当するものと決まっていて、それが新人披露の場と言えないこともない。今年のラグビー部はどのクラスにも部員がいる程度には人数が多く、かといって全員が協力的だとはいいがたく、練習はいいが自分たちで案が考えられないと、まとめ役に任命されて困り果てた9組の生徒が泉に泣きついたのがそもそもの始まりだ。
運動部でも文化部でも同じ場所で練習する部活同士、そこには複雑な感情が入り混じる。部活に対する帰属意識が強くなるのか、クラスメートとしては普通に付き合えるけど部活がからむと目の色を変える人間は多い。
野球部とラグビー部も別に仲が悪いわけじゃない。
ただ、第2グラウンドを共有し合うという仲間意識が芽生える反面、どうしたってもう一つの部活よりも長い間場所を専有していたいのが本音だ。特にラグビー部は、昨年度まで野球部が活動してなかったおかげでグラウンドを優先的に使用できていただろうから、その思いが野球部よりも強い。野球部に場所を譲ってやった、もしくは取られたというような思いがあったって不思議じゃない。上級生がそんな考え方をしていたらなおさら下級生だってそう思ってしまう。
そんな間柄の野球部とラグビー部だったから、ラグビー部が合同参加を持ちかけてきたことに対して野球部、特に首脳陣には少々複雑な思いもあった。11人でできる企画を考えていたから、野球部としてはラグビー部がいなくてもできる。
10人しかいないと話し合いのためにわざわざ集まる必要がないので楽でいい。結局野球部はラグビー部との合同参加となった。
野球部10人とラグビー部から10人が出てステージで踊り、ラグビー部の残りが照明を担当する。篠岡は照明パターンを考える。
どうせ野球部も個人練をしているような殊勝なヤツラではないから、踊りを分担するのは簡単だった。しかも繰り返しの部分も多いので最後に全員で踊ることも可能だ。
ラグビー部がいつ練習しているかはよく知らないが、野球部はミーティングの後に週1度練習することにした。
「学校祭近づいたら一緒にやんなきゃなー」
「オレらが早練のときはちょっと遅くまで残ってラグビー部に早く来てもらう。オレらが遅練のときは早めに来てラグビー部にちょっと残ってもらう」
「それがいいかな。泉、頼めるか?」
「おお、わかった」
人数も増えて迫力も倍になったはず。
さあ、ぼちぼち踊りを覚えよう!
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